お屋敷の間取りについて

お屋敷の間取りは、
 ――どんな建物もお庭が単位なんですよ。
 庭とは、四方を建物に囲まれた院子のことだ。その庭が三つ、あるいは四つ南北に並ぶ、と教えてくれたのは正頼だった。
 中心軸に沿って真っ直ぐ南北に。入り口は南で、奥に行くほど大事な場所。いちばん手前の建物は門、門を入ると最初の庭。庭を囲んだ建物のうち、北にある建物を抜けると二番目の庭に出る。そうして三つ、ないしは四つ。(新白銀三36)
とあることからも、北京四合院がモデルであろうと推測される。

いちばんこの間取りに関しては、黄袍館の記述が多いので、これを参考にして組み立てようと思う。ここは二進だという。
しかし二進の四合院では、まず狭い庭があって、門をくぐると広い庭があって、終了。のはず。でも黄袍館は、正院の後ろに後院さえあるという。三進に思えるのだが……。
ただ、前院が広めで、手前の庭と奥の庭をノーカンにした「二進四合院」の絵があったので、もうこれでいけ! という気分。これで四進じゃないんだ……。

ふつう、四合院ってこんな感じらしいのだが。これでいくと黄袍館は四進だと思うのだがなぁ。

たとえば、同じ「おもや」にしても、「正館」「正房」とか、いろいろ表記がある。これは建物の規模によって館とか房とかが変わっているのではないかと思う。(やはりそうだった!(記念101)
また、「ひろま」も表記がいろいろあるのだ……。たいてい「庁」がついている気がするが。

「院子」が「なかにわ」なことからも、「院」はだいたい「にわ」を指していると思われる。しかしながら、
 中院の院子の片隅には(新白銀四289)
とかもあるので、庭を指すこともあれば、一進、二進のそれぞれのかたまりを指すこともあるのだろう、と思う。

(1)
 大門(もん)をくぐり、前庭を抜けて門殿(いりぐち)となる簡素な門庁(もんちょう)に入り、そっけない前院(ぜんいん)を抜けると過庁(かちょう)に出る。過庁の先にある正院(せいいん)はこぢんまりとした庭院(にわ)だった。廂館(はなれ)に沿った走廊(ろうか)を渡って正館(おもや)へと出た。……普通、宰輔の居住する殿堂ともなれば、院子が三つ並ぶ三進の建物が当たり前だが、ここは前院と正院の二つしかない。(新白銀二47)
 陽射に慣れた目に、門庁の中は暗かった。瞬きして目を慣らすと緊張した午月の顔があった。駹淑の腕を掴んで柱の陰に引き込む。意を察して駹淑は自ら控えの房庁(おおべや)の中に飛び込んだ。午月がそれに続く。
 二人は折り戸の隙間から無人になった門庁を覗いた。少し待つと、門庁の反対側、常には閽人(もんばん)が控えている房庁から窺うような顔が突き出された。……それが門庁から前院の様子を覗き見て、すっと奥に消える。おそらくは前院の廂館(はなれ)のほうへ向かったのだろう。
 午月が動き出した。駹淑はそれに続く。門庁を横切って向かいの房庁に入ると、漏窓越し、廂館の一室に入る人影が見えた。(新白銀四20)

多分こんな感じ。


(2)
桓魋たちが塒にしていた家は、たぶん一進なんだと思う……。
 その家はちょうど里家ほどの大きさの、民居(みんか)としてはわりあいに大きな家だった。院子(なかにわ)を囲んで四つの堂屋(むね)が並び、院子の南東角に大門(いりぐち)がある。家の主人はいちおう桓魋のようだった。彼が正房(おもや)に住んでいて、祥瓊はその彼の客分ということで、堂(ひろま)を挟んだ反対側の臥室(しんしつ)を借り受けていた。(WH万里下136)(新万里下146)

黄袍館より小さい規模だから、同じ「おもや」でも「正館」でなく「正房」なのではないか。
(3)
固継の里家は、二進かそこらか。
 がし、と裏の扉が震えた。蘭玉は跳び退り、桂桂の手を引き、遠甫に抱えられるようにして正堂(ひろま)へと走った。その背に窮奇の爪で裂かれた扉の木っ端が飛んでくる。正堂の扉を閉め、院子(なかにわ)に駆け降りた。――とにかく、なんとかして里祠へ。里木の下なら、妖魔は襲ってこない。
 中門へと走廊(かいろう)を走り、石段を駆け降りて前院(まえにわ)に出る。背後で子供たちの悲鳴が続いていた。
 ……
 大門(もん)の軒下まで駆け寄ったとき、桂桂がひっと声を上げた。思わず桂桂の視線を追って蘭玉は振り返る。中門の屋根で身を屈めた窮奇の姿が目の中に飛びこんできた。(WH万里上188,189)(新万里上199,200)
 入り乱れて走る足音が奥から聞こえる。壁に爪を立てて、蘭玉は走廊に出、蹈鞴を踏んで走廊の手摺に縋る。助けを求めて外に飛び出そうか、わずかに迷い、手摺を掴んで走廊を奥へと向かった。
 ……桂桂。
 焼けつくような背の痛みに耐え、蘭玉は走廊をよろめくようにして走る。客堂と書房に分かれる角まで来て、床に転がった桂桂と、捕らえられた遠甫を見つけた。(WH万里下158,159)(新万里下168)

……なんで院子に駆け降りたのに、次には走廊を走ってるんだろうなあ……。
走廊の手すりがどうのと言ってるから、院子の十字の石畳のことを指しているのではないと思うのだけど。寝殿造でいう簀子縁みたいな? 走廊を通って中門に向かうならわざわざ正堂に寄る必要はなかっただろうし、院子に下りる必要もないだろう。


だいたいこんなもんじゃないでしょうか。
中院ってどこなんだろうなあ……三進のときの、前院、中院、正院、という感じかな?
中門は、垂花門とか、外と中を区切る門だというから、あの「門庁」ってのがそうなんだろうなあ。

結論  これ以上は私の頭では無理。